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「品性・経営・人生」 Vol.142 2009/04/13 読者数 414名
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企業永続の秘密を「石川酒造文書」に探る(2)
前号で紹介した日記を読むと、眞作氏の誠実な、それだけに深刻な悩みが見
て取れる。引用した部分の中程にある率直な述懐には、筆者は心が打たれる。
名家の名に恥じない誠実な経営、国家社会に尽くす経営をしてみたら、何も
かもを失ってしまった。ところが、周りの人を見ると、口では立派なことを
言いながら、戦争中は供出も公債消化も逃げ廻った。戦後の混乱が始まると、
そういう人たちはヤミをやり、インチキ商売でぼろ儲けをする。公職追放も
免れた。
自分も同じようにうまく立ち回ろうかと何度も考えては見た。しかし、そう
いう時にはいつも自分の道徳心が湧き出てきて、どうしてもそれが出来なかっ
た。いくら社会が悪くても、自分だけは誠実で良心に恥じない生き方をした
い。周りの人がいくらうまく立ち回って得をしても、自分だけは真理の道を
歩みたい、という思いが真似することを許さなかった、というのである。
さらに、紹介を続けてみる。昭和22年6月13日の日記よりの抜粋である。
“商人とは近頃のように悪儲けをするものだというような印象を社会に与え
るものであってはならない。誠実に真を貫く点において、宗教家の持つ心と
同じものを持って行かねばならない。真の心の表れこそは永久に愛される信
用なのだ。
梅雨がまたしとしとと降っている。嵐の吹くような今の悪い世相、強盗、ピ
ストル等々街の事件は極めて多いようだ。が、心の秩序を失ったことに起因
するこの世相も、やがて自分批判(ママ)されるときが来よう。”
筆者(私)は昭和15年生まれであり、また戦火を避け昭和22年秋まで新
潟県に疎開をしていたため、戦争直後の東京の混乱を直接に目にしてはいな
い。しかし、その頃の社会的雰囲気は皮膚感覚として充分に持っている。そ
れだけに、上の文章には心を打たれる。
石川眞作氏の昭和22年8月8日の日記より抜粋してみる。
“あまりにも夢を追ってきた二十年。私の今日の経済状態と気持はこの夢を
追うべく、より現実なのだ。(中略)
税金も取られた。損もした。この今日の自己はより現実的でなければならな
い。リアリストの自己を発見せねばならない。自己の一生がそれでありたい
とは思わぬ。
しかし、その夢でも自己だけで見る夢であっても良いわけだ。しばらくは!!
”
その後、眞作氏は石川家の第16代当主として、終戦から昭和30年頃まで
の10余年間、苦闘の日々を送った。しかし、次第に混乱が収まってくると、
結局は誠実に、道徳的に生きてきた自家だけが繁栄への道を歩んでいること
に気づく。どさくさ紛れに儲けた人たちはみな、いつの間にか泡のように消
えていった。
眞作氏はのちに公職に復帰し、福生市長を3期12年務めるようになる。そ
の苦闘の生涯は誰からも高く評価され、今日の石川酒造繁栄の礎を築いたこ
とになった。
石川眞作氏は、会社を、家を、家族を、そして自分を守るために、時に心が
揺らいでも、すぐに道徳に立ち戻った立派な経営者であった。「多満自慢
石川酒造文書」は永続する企業とはどういうものかを教えてくれる。
ここで筆者は『菜根譚』の次の一節を思い起こす。
“祖宗の徳沢を問わば、わが身に享(う)くるところのものなり。まさにそ
の積累の難きを念うべし。
子孫の福祉を問わば、わが身に貽(のこ)すところのものこれなり。その傾
覆の易きを思うことを要す。”
石川眞作氏も晩年には、きっとこの一節を繰り返し味わったのではないか。
いくら迷っても道を外れることはなかったのは、まさに「祖宗の徳沢」、す
なわち「祖先の余徳」のおかげであったのだろう。そして、それを思うたび
に、自らが子孫の残すものも余徳でなければならないと思ったに違いない。
日本酒離れによって、また流通の激変によって日本酒業界は近年は苦境にあ
るという。石川酒造も例外ではなかろう。しかし、それでも石川家が堂々と
栄えているのを見ると、「徳の継承」の大切さを身に沁みて感じる。
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